【護られなかった者たちへ】切ない社会派ミステリーとどんでん返しの融合。(書評)
護られなかった者たちへ
(著:中山七里)
【あらすじ】
・餓死死体が発見された。被害者は福祉保健所の課長。その残酷性から怨恨の線で捜査を進める刑事の笘篠だが、被害者の善人性しか出てこない。そんな中、とある県議会議員も餓死死体で発見される。こちらも悪い噂のない人格者であり怨恨容疑者は浮かんでこない。
・刑期を終えて出所した利根勝久は、保護司の櫛谷の紹介で就職活動に励む日々。しかしその裏で上崎岳大の居所を探していた。
・2人の被害者が福祉保健所時代の同僚、という関係性にたどり着いた笘篠は、第3の殺人を防ぐべく当時の上司である上崎の帰国と重要参考人の利根を、仙台空港で待ち受ける。
【評価/感想】
評価:★★★★☆
やはり中山七里の社会派ミステリーは心躍りますね!
佐藤健主演で映画化されています。
ページが進めば進むほど、重要参考人である利根に同情していく自分がいて、そしてなんと、刑事の笘篠や蓮田も利根に同情し、職務遂行との葛藤をしていくのである。
利根はかつてとある縁から、老婆の遠藤けいと疑似家族のような交流をし、実の母のように慕うような暮らしをしていた。
しかしある時に転職を余儀なくされ、厳しい環境に置かれて、けいの家に顔を出すことが難しくなり始めると、次第にけいの貧困が表面化し始める。
しかしけいは生活保護申請をしないのだ。
生活保護は迷惑がかかるのか。申請の敷居が高いのか。プライドが許さないのか。
それと不正受給、予算不足。
社会の理不尽に切り込んだ新しい社会派ミステリーの誕生だ。
そして終局の空港の場面からの一連の逮捕劇、そして衝撃の結末に「帝王中山七里ここにあり!」なのである。